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基本的人権の保護の限界とは・・


基本的人権は、最大限保障されるべきです。

ただ、人は自分の人権を尊重してもらいたければ、他者の人権にも
配慮をしなければなりません。

たとえば、いくら事実であるからといって、他人の名誉や信用を
損なうようなことを無制約に公言することは許されません。

表現の地涌が発言する者にある反面、名誉や信用など、
法律上保護を受けるべき権利や利益が他者にあるからです。

他人の名誉や信用を損なうような表現を制約なく行う自由など
存在しません。

その意味で、人権といえども、まったく無制約なものではなく、
他者の人権との調整のうえで、制約を受けるのです。


◆公共の福祉による制約

 基本的人権の制約について、憲法では次のように規定されています。

 まず、12条では、国民は、基本的人権を「公共の福祉のために」
 利用する責任を負うと定めています。

 また、幸福追求権を定める13条は、幸福追求権は、
 「公共の福祉に反しない限り」、国政のうえで最大の尊重を要すると
 定めています。

 このように、基本的人権は、公共の福祉による制約を受けます。

 ただし、基本的人権は、最大限尊重されるため、
 その裏返しとして、公共の福祉によって、
 「必要最小限の制約」しかできないとされています。

 ◎憲法12条
 「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、
  これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用しては
  ならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を
  負う。」

 ◎憲法13条
 「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に
  対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、
  立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

 憲法が国民に保障する自由や権利は、公共の福祉のために
 利用しなければならないとされ、また、公共の福祉に反しない限り、
 国政の上で、最大の尊重を必要とするとされています。

 この公共の福祉とは、ある人と他の人との人権が衝突し、
 あるいは矛盾する場合に、それを調整するための実質的公平の原理です。

 そして、その意味での公共の福祉による人権の制限は、
 憲法の規定に明記されているか否かによらず、
 すべての人権に共通して認められるものです。

 ◎公共の福祉の意味

  公共の福祉の意味については、3つの学説が対立しています。

  ◇一元的外在制約説

   基本的人権は、すべて「公共の福祉」によって制約される。
   22条および29条の「公共の福祉」という文言に特別の意味はない。

  ◇内在、外在二元的制約説

   「公共の福祉」による制約が認められる人権は、その旨が明文で
   定められている経済的自由権および国家の積極的施策によって
   実現される社会権に限定され、その他の権利、自由は内在的制約に
   服するにとどまる。

  ◇一元的内在制約説

   「公共の福祉」は、人権相互の矛盾衝突を調整するための
   実質的公平の原則であり、すべての人権に論理必然的に内在している。

   そして「公共の福祉」は、自由権を各人に公平に保障するための
   制約を根拠づける場合には、必要最小限度の規制のみを認め、
   社会権を実施的に保障するために自由権の規制を根拠づける場合には、
   必要な限度の規制を認めるものとしてはたらく。


◆特別の法律関係

 在監者や公務員は、法人や外国人と異なり、人権の享有主体であることは
 間違いありませんが、普通の人とは異なる、特別な立場や地位に置かれて
 います。

 こうした王権力と特殊な関係がある者には特別な人権制限がなされて
 います。

 たとえば、刑務所に収容されている受刑者に対しては、
 自由の制限が認められています。

 また、社会権は、国家に対する作為請求権としての性質を有するため、
 自由権と比べ、財政的な制約や政策的な制約などにより、
 制限される余地が広いとされています。

 ◎在監者の人権

  在監者は、公権力により強制的に拘束されている特殊な法律関係に
  あります。

  在監者の人権制限が正当化される根拠は、憲法自身が在監関係を
  認めており、当然に一般国民とは異なる制約を予定しているという
  点です。

  つまり、憲法は国家による刑罰を認め、その具体化として在監関係を
  認めている以上、在監者の身体が拘束され、その他の自由も制限も
  受けることはもともと憲法が予定しているのだということです。

  在監者の基本的人権を制限することは認められますが、
  その制限は、在監目的を達成するための必要最小限のものに
  とどまります。

  なお、同じ在監者であっても、受刑者と未決拘禁者とでは、
  拘禁の目的が異なりますから、制限される内容が異なるとされて
  います。

 ◎公務員の人権

  公務員の人権も、一般国民とは異なる制約を受けます。

  その制約の根拠は、憲法が公務員という存在を予定していることから、
  公務員であるがゆえの制約を受けると考えられるからです。

  公務員の人権制限として問題となるのでは、政治活動の自由と
  労働基本権になります。

  ◇公務員の政治活動の自由

   公務員の政治活動は、国家公務員法102条1項および
   人事院規則14-7により、一律に禁止されています。

   議員内閣制の下では、行政の職務の中立性が保たれていてはじめて、
   政策が忠実に実行され、行政の継続性が維持できます。

   そこで、公務員の政治活動の自由を制限する必要があるのです。

   ただし、公務員といっても、一般の勤労者であり市民であることは、
   私たちと変わりありません。

   そこで、政治活動の自由に対する制約も、必要最小限の制約であることが
   必要になります。

   必要最小限の制約といえるためには、制約の目的が正当であること、
   目的達成の手段として必要最小限の制約であることの二つが
   必要とされています。

  ◇公務員の労働基本権

   公務員の労働基本権の制約は、公務員であるがゆえの制約になります。

   公務員の職種の違いにより、労働三権(団結権、団体交渉権、争議権)
   の全部または一部が、制限されます。

◆憲法上の私人間効力

 憲法は、人権が国家権力によって侵害されてきたという歴史的事実から、
 国家権力によって人権が侵害されないように、人権保障規定を置くに
 至りました。

 つまり、憲法はもともと、国家と私たち私人との間を規律する公法であると
 言えます。

 しかし、現代においては、私人のなかにも、人権を侵害する社会権力として、
 巨大な資本と情報力を有する私的団体が登場してきました。

 そこで、憲法の規定が、私人間にも適用されるのではないかということが
 問題となります。

 この憲法規定の私人間応力については、3つの考え方があります。

 ◎無効力説
  憲法の規定は、私人間には適用されない。

 ◎直接適用説
  憲法の人権規定は、私人間に直接適用される。

 ◎間接適用説
  規定の趣旨、目的ないし法文から直接的な私法的効力をもつ人権規定を
  除き、私人間効力を認めないが、法律の概括的条項、特に公序良俗に
  反する法律行為は無効であるとする民法90条のような一般条項を、
  憲法の趣旨を取り込んで解釈、適用することによって、
  間接的に私人間の行為を規律すべきである。





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(記事作成日、平成29年3月30日)



 

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