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民法総則:意思表示とその効力とは・・


◆意思表示とは

 意思表示は、一定の法律効果を発生させる意思を外部に表すことであり、法律
 行為の要素である。

 たとえば、お店に入ってお弁当を買おうとします。気に入ったお弁当を持って
 レジへ並び、店員さんに「このお弁当をください」と言って、お弁当の売買契約
 を結ぶことになります。
 ここで、「このお弁当をください」ということが意思表示です。意思表示とは、
 一定の法律効果を発生させる意思を外部に表すことをいいます。これを細かく
 分析すると、お弁当を買いたいと思い、これを細かく分析すると、お弁当を
 買いたいと思い、これを店員さんに伝えようと決めて、「このお弁当をくださ
 い」と言ったわけです。つまり、意思表示は、このような三つの階段を、順を
 追って進んでいくことがわかります。
 次の図で示すとおり、それぞれの段階を「効果意思」、「表示意思」および
 「表示行為」といいます。ちなみに、「昼食の時間だから何かお弁当でも買お
 うかな」という段階は、効果意思の手前の動機であり、意思表示の段階には
 入りません。
 しかし、意思表示がいつも問題なく相手に伝わるとは限りません。たとえば、
 真意でない意思表示をしたり、だまされたり脅されたりして意思表示をしたり
 することもあり得ます。このような場合に、契約が成立したことを理由として、
 そのような意思表示をした人に対して契約を強制的に守らせてよいのでしょう
 か。
 この点、民法では問題のある意思表示をした人を保護する制度が定められてい
 ます。具体的には、「心裡留保」、「虚偽表示」、「錯誤」、「詐欺」および
 「強迫」の五つの形態を定め、それぞれの場合の法律効果を規定しています。

◆意思の不存在

 心裡留保は原則として有効。虚偽表示は原則として無効。要素の錯誤による
 意思表示は原則として無効。

 ◎心裡留保

  たとえば、その気もないのにAが自分の家をBに「100万円で売りましょ
  う」と言ったとします。このように、心裡留保とは、意思表示をする者(表
  意者)が、真意でないことを知ってする意思表示をいいます。つまり、表示
  行為に対応する効果意思がないことを知りながら、あえて行う「ウソ」の
  意思表示です。この心裡留保については、表意者を保護する必要はまったく
  ないため、原則として有効となります。
  ただし、相手方が、表意者が行った意思表示が真意でないことを知っている
  か(悪意)、またはその行為の当時に通常の注意をすれば知ることができた
  場合(有過失)には、その相手方を保護する必要もないので、無効となりま
  す。言い換えればこの場合、相手方が「善意かつ無過失」ならば、有効と
  いうことです。

 ◎虚偽表示

  虚偽表示とは、相手方と通じてした真意でない、虚偽の意思表示のことです。
  たとえば、借金が返せなくなり、自分の名義のままでは財産を差し押さえら
  れてしまうため、これを回避するために、名義だけを相手方のものにして
  おいて、差押えを免れようとする場合です。
  虚偽表示は原則として無効です。意思表示をした者とその相手方がともに
  虚偽の意思表示であることを認識しているのですから、両方ともに保護する
  必要がないからです。ただし、善意の第三者に対しては、無効を主張(対抗
  ともいう)できません。この場合、無過失である必要はありません。
  94条2項が適用されるのは、AがBとの間で、Aの債権者からの差押えを
  免れるために、自己所有の不動産をBの名義にしておいたところ、Bがこの
  不動産を、事情を知らない第三者Cへ売ってしまったような場合です。
  この場合、虚偽表示をしたAと比較して、善意の第三者であるCは不動産の
  権利が手に入らないと気の毒なので、民法はCを保護するのです。

 ◎錯誤

  表意者が、いわゆる勘違いで真意とは異なる意思表示を行うことを「錯誤に
  よる意思表示」といいます。錯誤とは、意思表示のうち表示に対応する意思
  が欠けており、しかも欠けていることに表意者が気づいていないことをいい
  ます。
  表意者を保護するため、錯誤による意思表示は無効とされますが、すべてが
  無効となるわけではありません。次の要件を満たさないと、表意者は無効を
  主張できません。

  ◇錯誤で無効を主張するための要件
   ①法律行為の「要素に錯誤がある」こと
   ②表意者に「重過失がない」こと

  また、錯誤無効の要件を満たしていても、表意者本人が無効を主張する意思
  がない場合には、原則として、他人が無効主張することはできません。

◆瑕疵ある意思表示

 強迫による意思表示の取消しは、詐欺による取消しとは異なり、善意の第三者
 に対抗できる。

 詐欺も強迫も、表示行為と効果意思は一致しているが、効果意思が生ずるプロ
 セスに問題がある場合であり、「瑕疵ある意思表示」にあたります。

 ◎詐欺による意思表示

  詐欺による意思表示とは、人にだまされてした意思表示のことです。詐欺と
  は、人をだまして(欺罔という)、錯誤に陥らせる行為をいいます。
  詐欺による意思表示は、取り消すことができます。ただし、善意の第三者に
  は、取消しを主張(対抗)できません。

 ◎強迫による意思表示

  強迫による意思表示とは、人に脅されてした意思表示のことです。強迫とは、
  人を脅して相手に恐怖心を起こさせ(畏怖をいう)、それによって意思表示
  をさせることです。
  強迫による意思表示は、取り消すことができます。そして、詐欺とは違い、
  善意の第三者に対しても、取消しを主張(対抗)できます。

 ◎第三者の詐欺または強迫

  第三者が口を出してきて、詐欺や強迫をする場面も考えられます。
  第三者の詐欺による意思表示は、通常の詐欺の場合と同様、善意の相手方に
  取消しを主張できません。つまり、意思表示をするにあたっては、第三者で
  なく契約の相手方の言うことを聞いて判断すべきであり、第三者の言うこと
  を聞いてだまされても、善意の相手方は不利益を受けないのです。
  なお、第三者の強迫の場合は、善意の相手方に対しても取消しを主張できま
  す。

◆無効と取消し

 無効な行為ははじめから効力を生じない。取り消された行為は行為の時にさか
 のぼって無効となる。

 前記のとおり、民法上、表意者には、心裡留保、虚偽表示および錯誤について
 無効の主張が、制限行為能力、詐欺および強迫について取消しの主張が、認め
 られています。
 無効とは、はじめから法律行為の効力が発生しないことをいいます。また、
 取消しとは、一応有効に成立した法律行為を取消権者が取り消すことで、行為
 の時にさかのぼって無効にすることをいいます。

 ◎取消権者

  ◇制限行為能力による取消し
   ・制限行為能力者
   ・制限行為能力者の代理人・承継人・同意権を有する者

  ◇詐欺・強迫による取消し
   ・瑕疵ある意思表示をした者
   ・瑕疵ある意思表示をした者の代理人、承継人

 法律行為が無効・取消しとなる前に当事者が相手方に給付をしていたときは、
 無効・取消しにより、当事者は、その給付物を返還しなければなりません。
 ただし、制限行為能力を理由とする取消しについては、制限行為能力者保護の
 ため、現に受けている利益(現存利益)についてのみ返還義務を負います。

 ◎無効と取消し

  ◇無効

   主張できる者は、基本的に誰でも可能です。効果は、はじめから生じませ
   ん。期間の制限はありません。

  ◇取消し

   主張できる者は、取消権者のみ可能です。効果は、取消しによって行為の
   時にさかのぼって無効になります。期間の制限は、追認できる時より5年、
   行為の時より20年経過で消滅する。

◆条件・期限および期間

 条件は発生が不確実な事実に、期限は確実な事実に、法律行為の効力の発生等
 を係らせる。

 ◎条件

  条件とは将来発生するかどうか不確実な事実に、法律行為の効力の発生や
  消滅を係らせる特約(附款)をいいます。
  たとえば、「転勤が決まったら自宅を貸す」とか、「行政書士試験に合格し
  たら車をプレゼントする」というような場合です。
  条件には、停止条件と解除条件の2種類があります。

  ◇停止条件

   停止条件とは、条件が実現すること(成就)で、法律効果が発生する条件
   です。先ほどの例で、転勤が決まるという条件、行政書士試験に合格する
   という条件が成就すれば、それぞれ効果として建物賃貸借契約の効力や、
   自動車贈与契約の効力が発生するのですから、これらは停止条件という
   ことになります。

  ◇解除条件

   解除条件とは、条件が成就することで、すでに発生していた法律効果が
   消滅する条件です。たとえば、大学を卒業したら、仕送りをやめるという
   条件がついていた金銭贈与契約は、大学の卒業という条件が成就すること
   で、贈与契約の効力が消滅するので、解除条件といえます。

  ◇さまざまな条件と法律行為の効力

   ◇既成条件
    意味は、法律行為の時にすでに成否が客観的に確定している事実を条件
    とする場合です。

   ◇不法条件
    条件がつけられることによって法律行為全体が不法性を帯びる場合です。

   ◇不能条件
    将来において実現が不可能である事実を条件とする場合です。

   ◇純粋随意条件
    当事者の一方が欲しさえすれば条件を成就させることができる場合です。

 ◎期限

  期限とは将来発生することが確実な事実に、法律行為の効力の発生や消滅を
  係らせる特約(附款)をいいます。
  私たちはよく約束をするときに期限を決めます。たとえば、「100万円を
  来年の3月31日に返済する」という契約の場合は、来年の3月31日が
  期限(返済期限)ということになります。
  期限には、確定期限と不確定期限の2種類があります。

  ◇確定期限

   確定期限とは、将来発生する期日が確定している期限をいいます。たとえ
   ば、前述のように特定の日にちで期限が定められている場合や、「今日から
   1か月後」というように、年・月・日を基準に定める場合です。

  ◇不確定期日

   不確定期日とは、将来発生することは確実だが、その時期がいつ到来する
   かは不確定な期限をいいます。たとえば、「私が死んだらこの家をあげよ
   う」というような贈与の約束の場合は、いつ亡くなるかは不確定ですが、
   確実に到来するので、不確定期限となります。

 ◎期限の利益

  たとえば「1年後に返済する」という約束でお金を借りた場合、お金を借りた
  債務者は、期限が到来するまでの間、つまり1年間はお金を返す必要がありま
  せん。このように、期限が到来しないことによって当事者(この例では債務
  者)が受ける利益を期限の利益といいます。
  期限の利益は、特約や法律行為の性質により反対の趣旨が認められない限り、
  債務者が有すると推定されます。
  期限の利益は法規することができ、債務者は返済期限が到来する前に借りた
  お金を債権者である貸主に返済することができます。ただし、これによって
  相手方の利益を害することはできません。
  なお、次の場合には、債務者は、期限の利益を主張することができません。

  ①債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
  ②債務者が担保を滅失させ、損傷させ、または減少させたとき
  ③債務者が担保を供する義務を負う場合に、担保を供しないとき

 ◎期間の計算

  期間とは、1週間、1年間というように、ある時点からある時点までの継続
  した時の区分をいいます。
  たとえば、「家を3年間貸します」といわれた場合には、具体的にはいつから
  いつまで使えるのかを明確にする必要があります。この期間の計算方法は、
  法令もしくは裁判上の命令に特別の定めがある場合または法律行為に別段の
  定めがある場合を除き、民法の規定に従うことになります。民法は、期間の
  計算方法について、「時間(時・分・秒)」を単位とする場合と、「日・
  週・月・年」を単位とする場合に分けて規定しています。

  ◇時・分・秒を単位とする場合

   起算点は、即時から起算します。満了点は、時間の終了をもって満了としま
   す。具体的には、「今から3時間、車を借りる」場合、その瞬間から起算し、
   その時点から3時間経過した時に満了します。

  ◇日・週・月・年を単位とする場合

   ◇原則

    起算点は、期間の初日は算入しない(初日不算入の原則)。満了点は、
    期間の末日の終了をもって満了とします。具体的には、7月1日に
    「1週間、車を借りる」と決めた場合、7月2日から起算し、7月8日
    の夜12時で満了します。

   ◇例外

    起算点は、期間が午前零時から始まる場合、初日を算入します。満了点
    は、末日が日曜・休日のときは、その日に取引をしない慣習がある場合に
    限り、その翌日となります。具体的には、6月30日に「7月1日から
    4日間、車を借りる」と決めた場合、7月1日から起算し、7月4日の
    夜12時で満了します(満了点について例外に該当しない場合)。

  「週・月・年」の長さは暦に従い計算し、期間の起算日に対応する日の前日
  が、終了の日となります。たとえば、7月1日の1年後といった場合に、7月
  1日の午前0時から開始する契約ならば、翌年の6月30日の夜12時を
  もって期間は満了します。初日不算入なら、7月2日から開始することになり、
  翌年の7月1日の夜12時をもって期間が満了します。







 

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(記事作成日、平成29年4月24日)



 

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